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Topic 15. 「裸眼0.3未満」の子どもが増加


子どもは自分自身では目の異常に気づくことができません。そのため、親は子どもの目の健康を守るために、普段からよく子どもを観察する必要があります。本連載は多数の手術実績をもつ眼科医が、子どもがかかりやすい目の病気と症状、観察ポイントを紹介。今回は「子どもの視力低下の背景」と「学校の視力検査では気づかない目の異常」について解説します。

3人に1人の子どもがメガネをかけている?

メガネをかけた小学生(※写真はイメージです/PIXTA)

その後、視力低下の子どもが年々増え続け、現在に至っては約3人に1人がメガネをかけているという状況です。実際に、文部科学省が2019年12月に発表した「学校保健統計調査」によると、視力が1.0に満たない近視の子どもの割合は、小学生で約35%、中学生では約58%でした(図表)。

[図表]裸眼視力1.0未満の者の推移(%)
出典:「学校保健統計調査」

小学生の3分の1以上、中学生の半数以上が近視という結果だったのです。さらに、メガネを必要とする視力0.3未満の割合は、小学生で約9%、中学生では約27%にも上っていました。

これは親世代と比べて、かなり増えている数字です。約30年前(1988年)には、視力が0.7以上1.0未満の幼稚園児は約16%、小学生は約8%、中学生は約10%ほどでした。0.3未満の幼稚園児は1%以下、小学生では約4%、中学生では約16%ですから、いかに子ども世代の視力低下が進んでいるかが分かります。

なぜこれほどまでに視力の低下した子どもが増えているのでしょう。

その理由として考えられるのは、文明の発展とライフスタイルの急激な変化です。私の子ども時代は、遊びといえば友達と野球やサッカー、ドッジボールをするなど、外を走り回ることが多かったと記憶しています。しかし現代は、小型ゲーム機など、ほとんどが家の中で過ごす遊びに変わってきています。

学校での授業も、いまやパソコンが小学校でも取り入れられ、大人よりも使いこなしているほどです。スマートフォンに至っては幼稚園児でさえ操作でき、塾に通う小学生は親との連絡ツールとして必需品になっています。

このように日常生活では、近距離を見る状況が圧倒的に増えています。実は、こうした行為が目を酷使することにつながっているのです。

近距離で画面上の細かい動きを追って見ているせいで、目のピント合わせをする力に負担をかけることとなります。通常、ピントを近くに合わせたときは目を休ませれば回復しますが、長時間にわたって見続けていると、目の回復力が弱くなります。そのため、疲れ目になりやすくなっています。

それに加えて外で遊ぶ機会が減ってきたことで、遠くを見ることも少なくなっています。これらが視力低下に影響しているのではないかと、文部科学省でも分析しています。

こうしたことから、子ども時代の「生活環境」や「生活習慣」は、視力に大きく影響することが分かります。子ども時代は目にとって非常に大切な時期といえます。

「視力が良い=遠くも近くも見える」の理屈は間違い?

視力が低いというのは、ほとんどの場合が近視です。つまり、近くの物ははっきり見えるけれど、遠くの物はぼやけて見える状態です。これとは逆に、実は遠くの物ははっきり見えるけれど、近くの物がぼやけて見えるという子どももいるのです。

あまり知られていませんが、視力には遠くを見る「遠見視力(えんけんしりょく)」と、近くを見る「近見視力(きんけんしりょく)」があります。
例えば、教室で離れた席から黒板の文字を見るのに必要なのが遠見視力、ノートや教科書など目から近い距離を見るのに必要なのが近見視力です。この遠見視力と近見視力の両方を使って、私たちは日常生活を送っています。

近年は、パソコンやタブレット端末の普及によって学校でも情報通信技術を活用した「ICT教育」が推進されています。例えば、教室でプロジェクターに図表などを拡大投影して分かりやすく見せたり、パソコン教室でインターネットを使って調べる学習をしたりするほか、海外の子どもたちともつなげて交流を図ったり、情報交換をしたりするといった試みがされています。

これによって近い将来、黒板中心の学習形態からタブレット中心の学習形態に変わってくると思われます。生徒一人ひとりにタブレットを配付し、手元のタブレットを見ながら授業が進められるという具合です。そうなると教科書も必要なくなるので、ランドセルもいらなくなり、おじいちゃん・おばあちゃんが孫にプレゼントするとう楽しみも奪われてしまう日が来るかもしれません。

ところが問題は、タブレットの画面の文字を判読できない子どもがいることです。「それは極度の近視でしょ」と皆さんは思うかもしれませんが、このような近見視力の低下した子どもが見過ごされている状況にあるのも事実なのです。

特に今年は、新型コロナウイルスの影響で休校となり、子どもたちの授業が遅れてはいけないからと、自宅にいる子どもたちと先生によるオンライン授業を進める学校も出てきました。このような授業形態が、今後も本格的に増える可能性があります。

そうなれば、ますます子どもたちは近くの物ばかりを見る状況となり、視力低下が加速するのではないかと危惧されます。

学校では、毎年春になると視力検査が行われていますから、そのときに視力が低下していれば見つけられると誰もが思っていることでしょう。

しかし、学校で行われる視力検査は“学校教育を円滑に進める”ために、教室のどの席からでも黒板の文字が見える視力をもっているかを測るものです。それは、5mの距離から行う遠見視力の検査ということになります。
つまり、通常は視力というと、遠くの物を見分ける力を指します。ですから視力が良いということは遠くがよく見えることであり、遠くがよく見えれば当然、近くもよく見えているはずだという理屈です。実は、ここが盲点になっているのです。

こうした思い込みの結果、遠見視力は良くても、手元を見る近見視力が低いケースが見逃されてしまいます。

大人の場合は、例えば老眼のように、以前は見えていた物が見えにくくなれば、「おかしい」と自覚できます。しかし、近見視力が良くない子どもの場合は、そもそも「はっきり見える」という経験がなく、近くもよく見えないのが当たり前な状態です。

また、物の見え方はほかの人と比較することもできません。ですから、近くがぼんやりとか見えていなくても、それを異常とは思わず、普通のこととして受け入れているので本人さえ気づいていないのです。

実際に、視力0.3の子どもでも「見えているの?」と聞くと、「見えている」と答えます。しかし、その子の目に合ったメガネをかけさせると「よく見える!」と驚き、メガネを外すと「全然見えない」と言います。

つまり、メガネをかけて初めて正しい見え方を知ります。その正しい見え方と、今まで自分が見ていたものを比較して、ようやく自分の見え方の異常に気づくというわけです。

なぜ近見視力の不良が問題になるかというと、単に教科書の文字が見えづらいだけではないからです。

一般的に、私たちの目は遠くを見るときより、近くを見るときのほうが緊張しています。近見視力が不良の子どもは、普通に見えている子どもに比べて、近くを見るときにさらに緊張を必要とします。

これによって、教科書が読みづらいからと授業についていけない、体育の授業でボールが飛んできてもキャッチできないなど、学習や運動の能力を発揮できなくなるケースが実際にあります。

読書や漢字の書き取りなどが苦手な子どもは、学習能力が低いのではなく、目の異常が原因かもしれません。遠見視力を測る視力検査では正常と判断されても、注意深く観察し、目の異常がないか見極める必要があります。


星合繁
ほしあい眼科院長